今週は読者の皆さんを私の出身地ペイ・ド・ジェクス地方にお連れしたい。スイス・ジュネーヴ州との国境近くフランス・アン県北東に位置し、ジュラ山脈とレマン湖に挟まれた自然豊かな地域である。といっても山登りにお誘いするわけではなく。ワインが好きなら絶対おすすめの、地元ではかなり有名なカーヴをご紹介する。コラムのタイトル通り、「ラ・ヴィノテーク・デュ・レマン」という店で 本店はフェルネイ・ヴォルテール町にあるが、まさに私のホームタウン、サン・ジェニ・プイィ町にも店舗がある。
伝統と革新
今から20年ほど前、ジャン=クリストフ・ブドー氏は ワインショップ「ラ・ヴィノテーク・デュ・レマン」を立ち上げた。5代続くワイン卸業者の家系に生まれた彼は、この世界では名の知れたプロであり、ワインの好みに関わらず、ありとあらゆるワイン愛好家を満足させるだけのワインを、自身の店に集めたのだ。
このカーヴ、特にフェルネイ・ヴォルテールの本店には、15年ほど前からよく通っている。私がワインの味に目覚たのはこの店のおかげだ。さらに言うなら、ワインで初めて感動したのもこの店だった。ブルゴーニュの白、ドメーヌ・ルフレーヴ2003年を口にした日のことは今でもはっきりと覚えている。あの大きな衝撃。自分の目の前に新しい世界が広がり、そこに飛び込んでいくんだとワクワクし、非常に興奮したのを今でも忘れられない。
そうして通っているうちに、ジャン=クリストフをはじめとしたスタッフとの会話やアドバイスが、私のワインテイスティングへの感覚・味覚を形成していった言っても過言ではない。ブルゴーニュ・ボルドー・ローヌを中心にフランス全地域のワインを網羅したこの店のワインリストには、気の遠くなるような数のワインが載っている。しかし私が特に素晴らしいと思うのは、有名なワイン以外にも新しいドメーヌや新しいワインをお客に紹介しようと常にスタッフが勉強し研究している点だ。例えば、クロ・ドゥ・ラ・バルタサッド1南仏ラングドック地方のワイン。ワイン醸造に情熱をかけ、ブルゴーニュのトップドメーヌで修業したギヨーム・エレーヌ夫妻の作るビオディナミワインは瞬く間に有名に。、コンベル・ラ・セール2家族経営のシャトーで造られ、マルベック100%の生粋のカオールワイン。2013年からビオディナミ農法へ転向。、エリアン・ダ・ロス3アルザスで著名なフンブレヒト醸造で修業したのち、ボルドーから70㎞の小さな村でワイン生産をしている生家を継いだダ・ロス氏のドメーヌ。まずブドウの収穫率を下げることからはじめ、入念に造られた上質のブドウが織りなす味はワインは大変バランスがいいと大評判。、ヴァンサン・ダンセール、4本拠地はシャサーニュ・モンラッシェに位置する、ブルゴーニュ白のトップ生産者。バランスの良さとボディの厚みが特徴のワイン。ティボー・ブーディニョン5ロワール地方・アンジューで2009年の初ビンテージからあっという間にトップ生産者となった。シュナン・ブランのスペシャリストと言われている。などを私が発見したのもこの店だった。
アルザスのリースリング。当然想像はしていたが…やはりすごい!
さて、本日のデギュスタッションは3本。最初のワインはキュヴェ・ヴィヴラッション2021年。名門ドメーヌ、 マルセル・デイスの現当主のジャン=ミッシェル・ダイスの長男マチュー・デイスが新しく立ち上げたワイナリー「ヴィニョーブル・ドゥ・レーヴ(夢追い人のドメーヌ)」で、ビオディナミ農法で造るアルザスの辛口リースリングだ。この新しいワイナリーについてはワインに関するポッドキャスト「Bon grain d’ivresse」で色々聞いてはいたのだが、今回、店のスタッフ、マリーが実際に飲ませてくれて、やはり納得。
ワインの色は黄金がかっているが、青白い。キラキラしていると言えばいいのか。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、いや、確かにそうなのだ。
香りはキリっとしたミネラル感が感じられるが、その一方で完璧に熟してから収穫されたブドウであることが感じられる。口当たり(Le toucher de bouche)はシルキーで、こっくりしている。凛として、サッパリしていて、酸味とほのかな苦味のバランスがとてもいい。複雑な味わいを楽しむワインではないが、非常に心地がよく、熟成を待たずにすでに味わえるワインと言えるだろう。こんなワインは、燻製した鱒とレモンコンフィをトーストに乗せて味わってみたい。そして何より値段とクオリティを考えると本当にお買い得な一品だ。
今すぐ飲める、ブルゴーニュのピノ・ノワール
次はシモン・ビーズ・エ・フィスのサヴィニー・レ・ボーヌ 2019の赤。このドメーヌの白はすでに試飲したことがあるのだが、印象は悪くなかった。
今回は赤の試飲。色はピノ・ノワールの割には薄いルビー色で、キャンディのようだ。香りはベリーとスパイス、そこに少々のコショウを感じるが、非常に控えめで、あまり目立たず表情もそれほど見えない。一口でピノ・ノワールとわかるようなものではない、と言えるだろう。味わいは強めの酸味から始まるが、決してアンバランスさを感じるものではなく、トップノーズで感じたベリーとスパイスの風味にここで再会する。今すぐに飲めるピノ・ノワールとして、例えば豚の肩ロースのグリルなどと合わせてみたい。ワインの酸味が脂身とよく合うはずだ。ピノ・ノワールと言えばもう少し複雑で余韻のあるものを期待することもあるが、このワインは今すぐに楽しめるワインということだろう。
ロワールの甘み、爽やかさ、そして複雑な味わい
そして3本目のワイン。私だけでなく、このドメーヌを知らなかった他のテイスティング参加者たちも皆一目ぼれしてしまったといえるのがこのワインだ。テラ・ヴィータ・ヴィナムのキュヴェ・プルミエール・トリ2020年。アンジュ・ロワール地方にある、私が気になって仕方ないドメーヌだ。すでにこのドメーヌの辛口シュナン・ブランを味わう機会があり、バランスの良さと端正な味わいに魅了されていた。今回のワインは、アンジュ西部・アンジューノワールと呼ばれるシスト土壌の地質ゾーンで遅摘みされたシュナン・ブランのキュヴェである。アルコール度数は10.5%、非常に飲みやすい甘口ワインに仕上がっている。
色は美しい黄金色。そして香りはどうだろう。甘口シュナン・ブランの特徴である煮詰めたリンゴ、東洋系のスパイス、それに加えて瑞々しさも感じられ、なんともチャーミングだ。
口に含むと、酸味と甘味のバランスがとても心地よく、調和がとれている。ものすごく複雑というわけでもなく、魅力的な味わい。このワインはワインだけで飲んでもおいしいし、デザートワインとしても楽しめるだろう。その爽やかな風味のおかげで、私のようにフォアグラと甘口ワインの組み合わせが苦手だという人にも面白いマリアージュを提案できるはずだ。
勿論、フランス側にもスイス側にも、この地方は他にも質の良いワインカーブは沢山ある。しかし、この店の素晴らしく幅広いワインリストは、スタッフが情熱をもって徹底的にリサーチを続けた賜物でありどこにでもあるわけではない。ワイン通は勿論、ワイン初心者でも必ず自分にぴったりの美味しいワインと巡り合える幸せがここにはある。
ホームページ→ラ・ヴィノテーク・デュ・レマン(La Vinothèque du Léman)
- 1南仏ラングドック地方のワイン。ワイン醸造に情熱をかけ、ブルゴーニュのトップドメーヌで修業したギヨーム・エレーヌ夫妻の作るビオディナミワインは瞬く間に有名に。
- 2家族経営のシャトーで造られ、マルベック100%の生粋のカオールワイン。2013年からビオディナミ農法へ転向。
- 3アルザスで著名なフンブレヒト醸造で修業したのち、ボルドーから70㎞の小さな村でワイン生産をしている生家を継いだダ・ロス氏のドメーヌ。まずブドウの収穫率を下げることからはじめ、入念に造られた上質のブドウが織りなす味はワインは大変バランスがいいと大評判。
- 4本拠地はシャサーニュ・モンラッシェに位置する、ブルゴーニュ白のトップ生産者。バランスの良さとボディの厚みが特徴のワイン。
- 5ロワール地方・アンジューで2009年の初ビンテージからあっという間にトップ生産者となった。シュナン・ブランのスペシャリストと言われている。