大型イタリア食材デパート・イータリーは毎年イタリア大使館と協賛して「世界のイタリア料理週間」を開催している。11月下旬、その一環として行われたパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会主催のマスタークラスに参加した。パルミジャーノの説明、試食だけに終わらず、ペアリングワインの紹介、さらには熟成年数の違うチーズで作る料理3品の実習と盛りだくさんの内容であった。
店から醸し出されている高級感に恐れ、実はきちんと中にはいってじっくり見たことがあまりなかったイータリー。2007年、トリノでオスカー・ファリネッティが創立したこの店は現在世界各地に40店舗以上展開しており、日本にも5店舗オープンしているのでご存じの方もいるだろう。買う、食べる、学ぶ、をコンセプトにイタリア食材販売コーナーとレストランを併設し、イタリア各地の食材が揃う大型フードマーケットだ。2015年にオープンしたパリ店では、2500平方メートルある店舗内の2階でイタリア食材に関するアトリエやワークショップも開催されている。
早速2階に上がると、「イータリー・スコーラ」コーナーであるガラス張りの近代的な台所にすでに参加者が集まっている。パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会のフランス代表プロモーターであるファブリス・グール氏がにこやかに迎えてくれた。この日の参加者は計9名。和気あいあいとした雰囲気だ。皆さん、20-30代?若くてお洒落で気後れする私。といってもそれは最初だけ。一緒に料理を作っている間に打ち解け、最後にはみんなでグラッパを飲んだ。
まずワインの話が始まる。女性ソムリエが説明してくれたワインはイータリーワイン部門責任者のルカ・ルバルブタ氏がペアリングしたものだ。ワインのことを「notre bébé(私たちの赤ちゃん)」と自慢げに話しているのが印象的だった。
イータリー・パリ店はなんと1500種類以上のワイン・アルコールを貯蔵しており、当然これはフランス最大のエノテカ(ワインカーブ)である。今回のペアリングはスプマンテ(スパークリングワイン)Alta Langa Extra Brut とランブルスコLambrusco Bio Grasparossa di Castelvetro Docの2本。北イタリアピエモンテ産のスプマンテ、アルタ・ランガはピノノワールのしっかりした構成とシャルドネの軽やかさのバランスが非常によい。ランブルスコはロンバルディア州とエミリア・ロマーニャ州が生産地区の甘味のある赤いスパークリンワインだが、このグラスパロッサ・ディ・カステルヴェトロDOCは通常のランブルスコに比べると甘さ控えめできりっとしている。
パルミジャーノ・レッジャーノの名前は、産地であるパルマとレッジョ・エミリア両都市の名前に由来している。「郷土料理、郷土食材には同郷のワインと相性がいい」という原則から言っても生産地が同じランブルスコを合わせるのは理に適っている。確かに赤ブドウのタンニンがチーズの脂肪分、塩分と調和し、思っていたよりもワインの甘さも気にならない。北イタリアではパルミジャーノにスパークリングワインを合わせて飲むことが多いらしく、定番の組み合わせのようだ。ただ正直、私だったらアペリティフにこのチーズを食べるのであればすっきりした白か、コクのある赤ワイン、食後にするならグラッパなどに合わせた方が好きだ。え?重すぎる?仕方ない、なんでも「がっつり」が好きなのだ!
ワインの紹介が終わったところで、ファブリスによるパルミジャーノの解説と試食が始まる。
800年前から変わらぬ場所・材料・製法で製造され、チーズの王様といわれるパルミジャーノ・レッジャーノ。1996年からはD.O.P.(保護原産地呼称)と呼ばれる制度により品質・製法・製造場所が厳格に守られている。因みに日本やアメリカで「パルメザンチーズ」として販売されている粉チーズは「パルミジャーノ風に作られたチーズ」であり、パルミジャーノのように産地や熟成期間等に決まりはなく、全くの別物である。
参加者の前には14か月・24か月・36か月・48か月と熟成期間別にパルミジャーノが並べられている。チーズの原料は生乳、塩、そして牛の胃袋から抽出された天然の凝乳酵素のみ。原料の生乳、さらには搾乳する牛の飼料も限定生産地域のものと限定されている。そして最低12か月の熟成期間がなければパルミジャーノとして認定はされない。1㎏のパルメジャーノを作るのには平均14リットルの生乳が必要なので、まさにうま味と栄養が凝縮されている。イタリアでは老人ホームでパルミジャーノを食べさせているというのも納得だ。
このチーズはフランスでも日本のようにパスタや料理に削って使うことが多い。でもパルミジャーノの一番おいしい食べ方はなんといっても塊を砕いてそのままですよ、イタリアン人はアペリティフにこうやって食べるんです、チーズのうま味と食感がたのしめますから、とスコップのような専用ナイフでチーズを砕くファブリス。一般的なパルミジャーノは24か月熟成のものなので、14か月熟成チーズは「赤ちゃん」扱いである。始めに試食の仕方を教えてもらう。まずは色を見てから手触り、感触を楽しむ。赤ちゃんパルミジャーノは薄い黄色の肌をしていて触るとまだ柔らかい。その次に、塊を鼻の下に持って行って香りを楽しむんですよ、ほら、フローラルなちょっとヨーグルトのような香りでしょう、と言われたが時すでに遅し。おなかがすいていた私、先に試飲したお酒のせいもあって、パルミジャーノはすでに口の中だった……そうか!次回からは視覚の後、香りだ!ワインと同様、香りも楽しまなくては!その後、口の中でゆっくり転がして味を楽しむ。癖のあまりない若いパルミジャーノは野菜やフルーツと一緒に食べたり、トマトソースにかけたりがおすすめだそうだ。
次は24か月。ナイフで削るのがすでに固そうで、見た目にも水分が少なくなっているのがわかる。触ってみると明らかに触感が変わっている。香りはバターのようなちょっとバナナのような?少しスパイシーな香りもしませんか、と言われて必死にくんくん嗅いでみる。確かにナツメグのような匂いが。砕いたかけらを口に入れると、14か月よりだいぶ強く主張して、ヘーゼルナッツのような後味が残る。前述のように市場に一番出回っているのは24か月のパルミジャーノで、バランスが非常によく料理にも使いやすいとされている。パスタやリゾットといった料理に一番使われるのも24か月熟成のものだ。
36か月になると、外側の感触はさらに固くなるのだが中はほろほろっとしている。そして何より見た目ががらりと変わり、外側の表面には白いツブツブがはっきり見える。えっ、カビ?と慌ててしまいそうな斑点。勿論カビなどではなく、熟成中にたんぱく質が分解されアミノ酸が結晶になったもので、まさに「うま味」の塊だ。さらに内部にはもっと大きな白いブツブツが見える。これはアミノ酸の一つであるチロシンが結晶化したもの。つまりチーズの熟成が進みこの結晶ができるころには、うま味アミノ酸であるグルタミン酸がチーズ中に増えているから、パルミジャーノがどうして他のチーズより旨いか科学的に証明もできているというわけです、と説明されても化学反応の話なんて難しすぎて私にはチンプンカンプン。なので自分の舌で実証。食べてみることにする。
香りは、米酢のような酸っぱい香りの中に黒コショウ、ナツメグそしてドライフルーツが少し混ざった感じ。口の中に入れてみると、結晶がシャリシャリ、というよりもジャリジャリ。がつーん!と濃い味が口の中に浸透する。不思議なことに24か月にあった強い主張がなくなり、丸い味になっている。その代わり食べた後も口の中にしっとりとうま味の後味が残る。この熟成加減のチーズは水分の少ない料理のほうがうま味がでるので、熱々ピザやカルパッチョにかけるのがおすすめとのことだ。
そして48か月のチーズになると、表面のツブツブも中のブツブツも更に大きくなっている。触るとすっかり固くなっていて力を入れるとポロポロと崩れる。風味はさらに丸くなり、磨かれている。前述二つのチーズを口に入れた時感じた刺激するような味は全くないが、うま味の凝縮加減がすごい。
このチーズはバルサミコ(バルサミコもランブルスコのように同郷なので抜群の相性)やはちみつを少しかけて食後酒と一緒に食べてほしい。
特別に60か月のチーズも味見させてもらった。見た目は48か月とそんなに変わらないと思ったが、口にした瞬間、ガリっ!と結晶が歯に当たる。ところがチーズ全体はクリームのような味わいで、余韻の長さが半端ではない。60か月でこんななら、もっと熟成が長いとどうなるのでしょうね?ほんとにカビ生えちゃったりしないんですかね?という私の質問にファブリスの答えは、
「私が食べた中で一番熟成していたパルミジャーノは20年ものでした。いや、何と表現したらいいのか。ただただ、incroyable な(ありえない)おいしさでしたね。」
うわ―――!!気になる!!20年熟成のパルミジャーノ!!
そしてチーズを見る時には、外の皮も見てほしいといわれて比べてみる。確かに14か月の時はしっとりしている皮の部分が熟成を重ねるにつれてなめし皮のようにつるつるしてきて、48か月の皮は色も薄い琥珀色になっている。
この皮の部分もイタリアではちゃんと全部使うそうで、刻んで煮込み料理やパスタソースに隠し味としていれるだけでコクがかなり出るらしい。
ファブリスのおすすめは、皮を適当にカットしてオーブンで15分ほど焼いて作るパルミジャーノの皮チップス。彼が言うのだから間違いなく美味しいおつまみなのだろうと想像する。
そろそろお腹がすいてきた、というところでお待ちかねの料理実習の時間。ローマ出身だけれど、シシリアとローマのハーフよ!というクリスティーナシェフと一緒に作った料理は
―野菜のトルティーノ(パルメジャーノ24か月)
―カボチャとグアンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け)のラザニア(パルメジャーノ36か月)
―ミカンのクランブル(パルメジャーノ14か月)
パルミジャーノの熟成期間によって違うレシピを作って試食することで、なるほど!と説明が具体化し興味深かった。野菜のタルトには万能選手の24か月、深みの出る36か月はラザニアに、そして味が邪魔にならない14か月はデザートのクランブル、と大変納得のできる使い方。いつもチーズ購入時には、やっぱり高いのが美味しいんだろうなぁと漠然と思っていた私にはとても画期的なアトリエであった。
ラザニアも生地から手作り、トルティーノにも野菜がたっぷりでどれも美味しかったのだが、私が一番感動したのは、ミカンのクランブル。普段アーモンドプードルを使うところをパルミジャーノにするだけなのに、これがおいしい!主張をそんなにしてこない若いチーズの塩気と香りがミカンの甘酸っぱさととてもあうのだ。しかも、他の二品は面倒くさがりの私にはちょっと敷居が高いがこのクランブルは本当に簡単ですぐできる。
パルミジャーノ・チーズ協会の快諾をいただき、今回レシピを公開するので是非皆さんもお試しあれ!パルミジャーノ・レジャーノ・チーズ協会とイータリー関係者の皆様に感謝の意を表してレポートを終了する。
画像ギャラリーの下に簡単でおいしいパルミジャーノレシピがあります!
レシピ / 熟成14か月のパルミジャーノ・レッジャーノ、ミカンのクランブル
材料 4~6人分
無塩バター120g
ブラウンシュガー50g(普通の砂糖でOK)
ミカン8個
薄力粉50g
削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノ50g
*プリン型などの耐熱器を人数分用意する。
ミカンの皮をむいて実をばらばらにして大きかったら2等分に切る。厚手のフライパンを熱し、バター20gと砂糖を入れ弱火で溶かす。ミカンを加え、表面が軽くカラメルに覆われたら、果実が柔らかくなる前で火を止める。別の容器に移して常温で冷ます。
オーブンを180度に温める。その間、クランブル生地を作る。小麦粉とバターとパルミジャーノ・レッジャーノをさっと混ぜ合わせる。型の底にミカン大匙2杯を敷き、上からクランブルをかけて10分オーブンで焼く。ボナペティ―ト!
イータリー Eataly Paris Marais – Epicerie Italienne en ligne
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会
Parmigiano Reggiano – The official website of the Consortium