流行りのお店やお洒落な人たちが、下町らしい昔ながらの風情と共存しているパリのレプブリックからペール・ラ・シェーズ墓地にかけてのエリア。ビストロ「Deux」はそんな雰囲気が漂うメトロ3番線パルモンチエ駅付近にある。店に一歩足を踏み入れると、二人のシェフが和やかに迎えてくれた。この日サービスをしていたのはロマン・カサスで、キッチン担当はティフェンヌ・モラーだったがそれが逆になることもある。レストランの名前でもある友人「二人」は、それぞれの故郷(ベアルヌ1フランス南西部。スペインに近いピレネー山中にある地方とサヴォア2フランス南東部。スイス国境に近い地方 )からインスピレーションを得た料理を提供している。キッチンの様子が見えるようになっているせいもあるだろうが、フレンドリーな雰囲気と温かみのある料理で、まるで家にいるような落ち着いた気分になるレストランだった。
まずはメニューに目を通そう。ホタテ貝のカルパッチョ・バターナッツ添え、シャンピニオンのヴルーテ、ニョッキに若雌鶏のファルシー……。うーん、読んだだけで、寛大な大地の香りがしてきた。全部注文したくなる。テロワールを感じさせるこのメニューならきっと芯から温まる料理が期待できそうだ。「クロケッタ」と「ポレンタとトムチーズのグラタン」の文字を目にしたらよだれが出てきた。チーズを使った料理が大好きな私。美味しいチーズを使った料理は確実に美味しい。
クロケッタを食べない訳にはいかない
まずは私の大好物、スペインタパスのクロケッタから。外側はカリっと、内側はクリーミー。このコントラストがたまらない。普段なら10個位は簡単に食べてしまう。「Deux」のクロケッタは季節ごとに中身が変わる。この日はラクレットとトリュフだった。ボリュームたっぷりの上に、中のソースがものすごくクリーミーなようだ。いつもは指で食べるのだが、ソースが流れ出てしまう危険があるのでここではナイフで切ってみる。顔を出したのはベシャメルっぽいベースにトリュフが散りばめられたソース。クロケッタの上にかかっているハムのソースも全体につけていただく。かなり濃厚な味なのでやはり一つで充分だ。ハムソースの上にかかっているカリカリのハムがさらに歯ごたえをよくしている。間違いなかった。やっぱり美味しい!
秋の色彩豊かな一皿
事前にSNSでチェックして、実はすでにメインは選んであった。カボチャ・キノコ・コンテチーズにブイヨンを添えたポワレ栗のニョッキ。冬の季節の美味しい要素をいいとこどりしたような一皿ではないか。こういう料理に私は弱い。「このブイヨンはティフェンヌが店で使った野菜の葉くずを全部集めて作ったんですよ」とお皿を運んできたロマンがブイヨンを注ぎながら説明をしてくれる。ニョッキの上には美しい秋の色彩。茶色いキノコたち・オレンジ色のカボチャ、フューシャピンクは赤玉ねぎピクルス……。キノコはトランペット茸、シャントレル茸、生マッシュルームに炒めたマッシュルームと数種類使われている。下から顔を覗かせたニョッキは、口当たりがよく栗粉のほんのりとした甘さを感じる。中は柔らかくとろけるようで、外はカリっとした食感。料理の味の方はといえば、甘みとしょっぱみにピクルスで酸味も加わり、さらにバランスが取れている。全体的にあっさりしているが、野菜やチーズの豊かな風味によって安定感が与えられ非常に満足度が高い一品になっている。熱々のブイヨンは皿の中にある野菜たちの味を引き立てている。絶妙!
デザートはどうされますか?
と聞かれ、どうしよう!と嬉しい悲鳴。というのも、私はチョコレートの大ファンではないのだが、レストランやパティシエがどのメゾンのチョコレートを使っているのかはいつも気になってしまう。ここではニコラ・ベルジェ3カカオ焙煎士、ショコラティエ。エヴァン、ペルティエ、ラデュレで経験を積み、2004年にはプラザアテネのパティスリー・エキュゼキュティヴ・シェフに就任。アラン・デュカスがパリ11区にオープンしたチョコレート工場(Le chocolat Alan Ducasse Manufacture à Paris)にも一役買っているのチョコレートを使っているというではないか!
実は、このカカオ焙煎士のチョコレートを食べて私はチョコレートが好きになったと言っても過言ではない。彼のチョコレートを使用しているグレイズド4 パリ9区にあるアイスクリームショップ。美味しいだけでなく、斬新な味と気の利いたネーミングで人気があるのチョコレートアイスを食べた時、その素晴らしいバランスと、力強いのに全くしつこくないチョコレートの風味に恋してしまったのだ。私がチョコレートを味わい楽しむようになったのはそれからだ。
だから、当然ここではチョコレートムース・マロンアイス添えを注文する。ところが、出てきたムースの外見-温製でほぼ液状ーに一瞬戸惑ってしまった。見た目はムースではなく、溶けかかったマロンアイスのクネル5 生クリームやアイスクリームを温めたスプーンですくって成形したものの上に、チョコレートクリームがのっていて、さらにクランブル風のチョコレートがかかっている。しかしである。一口食べてみると、温かいムースと冷たいアイスのコントラストが非常によくマッチしていていて美味。いそいそとスプーンを口へ運ぶ。
季節の素材、すべてが自家製。ボリュームもなかなかだ。平日のランチメニューは、前菜・メイン・デザートで25ユーロとコストパフォーマンスも素晴らしく、メニュー内容は頻繁に変わる。お酒を飲みながら「Deux」の料理を試してみたいという人には、正面にある「P’tit deux」もおすすめだ。ここではボデガスタイル6 ボデガはスペイン語でワインカーブやワイナリーを指す。みんなでワインを囲んでおつまみや大皿料理を楽しむスタイルのことでクロケットなど厳選された食材を楽しめる。
DEUX
58 Rue de la Fontaine au Roi
75011 Paris
https://www.deux-restaurant.fr/
- 1フランス南西部。スペインに近いピレネー山中にある地方
- 2フランス南東部。スイス国境に近い地方
- 3カカオ焙煎士、ショコラティエ。エヴァン、ペルティエ、ラデュレで経験を積み、2004年にはプラザアテネのパティスリー・エキュゼキュティヴ・シェフに就任。アラン・デュカスがパリ11区にオープンしたチョコレート工場(Le chocolat Alan Ducasse Manufacture à Paris)にも一役買っている
- 4パリ9区にあるアイスクリームショップ。美味しいだけでなく、斬新な味と気の利いたネーミングで人気がある
- 5生クリームやアイスクリームを温めたスプーンですくって成形したもの
- 6ボデガはスペイン語でワインカーブやワイナリーを指す。みんなでワインを囲んでおつまみや大皿料理を楽しむスタイルのこと