「ルイ・ヴィトン」が昨年12月15日、パリ1区にある本社ビルの一部に、期間限定の展示スペース「LV Dream」をオープンした。特別展示以外にも、限定アイテムショップやカフェとショコラトリーも併設していると聞き足を運んでみた。カフェはルイ・ヴィトン傘下でパリ最新の超高級ホテル「シュヴァル ブラン・パリ」のシェフパティシエを務めるマキシム・フレデリックが監修。この青年はパリのパティスリー界ではちょっとしたスターだ。「シュヴァル・ブラン」のメインダイニング「プレニテュード」が一年以内にいきなり三ツ星を獲得して話題になったが、このレストランの夢のようなデザートを開発しているのもこのマキシム君。
展示会への入場は無料だが、オンラインでの事前予約が必要とのこと。展示は、160年以上にわたるアーティスト・クリエーターとのコラボ作品の歴史(村上隆、川久保玲、草間彌生の作品も)を振り返る以外にも特注トランクや初期の作品展示などとても興味深かったのだが、ここではさっさとカフェとショコラトリーの話に移ろう。
「Maxime FRÉDÉRIC at Louis Vuitton」もうそのままじゃん!という名前のカフェ。熱帯植物園のイメージなのかトロピカルな植物に囲まれている。席に着くと美しいムラーノグラスで水をサービスされる。こ、これはさっき立ち寄ったギフトショップで値段をみてびっくりしたセットではないか!テンションが上がる。
お菓子にはすべてメゾンのモチーフ。代表的モチーフのモノグラムやダミエが美しくかたどられたケーキがきれいに飾られており、見ているだけでうっとりしてしまう。
バックは簡単に買えないけれどお菓子なら食べられる!でも食べるのがもったいない……(と5秒ほど思った)。シグネチャーはチョコレートエクレアの「ルイ・ヴィトン・シグネチャー」。創立者にオマージュを捧げるパティスリーを創作するべく、マキシム・フレデリックが当時の資料を探したところルイ・ヴィトンの食事に関する情報はあったが、お菓子に関するものは何も見つけることができなかったそうだ。そこで、自分の祖父母が大好きだったチョコレートエクレアならヴィトンも喜んだに違いないとチョコレート・エクレアをシグネチャーに決定したという。
シグネチャーも気になったが、チョコレートはお土産に買っていこうとおもっていたので、エクレア以外をセレクト。チョコレート・アントルメ、バニラ・アントルメ、レモン・メレンゲパイの3点。選ぶ基準は何かって?見た目です!
チョコレート・アントルメはとにかく美しくまずは目で堪能。ムースはカカオの味がしっかり、下の方はカリカリとした歯触り。ヴェネズエラ産・ペルー産・マダガスカル産のチョコレートを使っていると説明されけれど、層によって違うということか?
バニラ・アントルメは上のソースがとろり、中のムースはふわり、そして一番下はカリカリ。このケーキが私は一番気に入った。
レモン・メレンゲパイは、ナイフを入れたらすぐにしぼんでしまう位メレンゲ生地がふわっ。ダミエ柄のクッキーがしっとりサクサク。
シュヴァル・ブランには泊まれないけれどここならまたこれそうだよね、と話しながらちょっと贅沢気分に。
アイコニックなトランクがずらりと並んだショコラトリーでは、これまたルイ・ヴィトンのモチーフから発想を得たゴージャスでかわいらしいチョコレートたちがルイ・ヴィトンの箱に入れて販売されている。
ここでも見た目で二つセレクト。Fleur de Monogram(モノグラムの花)というチョコレートはそれぞれの材料へのこだわりがすごい。赤い花びらはヘーゼルナッツチョコレートにタヒチ産バニラとキャラメル、黄色はピーナッツチョコレートにマダガスカル産バニラとキャラメル、青はそば粉のチョコレートにレユニオン島産のブルーバニラ1勿論バニラビーンズが青いわけではなく、昔レユニヨン島の人は質のいいバニラビーンズは「青い」と言っていたことからこの名前がついている、そして緑色の花びらはピスタチオチョコレートにオレンジフラワーとキャラメル風味となっている。
ボンボンショコラはマダガスカル、ベトナム、ドミニカ共和国と違った産地のチョコレートにカカオ含有量も違うガナッシュが楽しめる。
ルイ・ヴィトンのバックを買ったり、シュヴァル・ブランに食事に行くことはできないけれど、手に届く範囲でルイ・ヴィトンのものを買えるという付加価値はかなり大きいのではないか。
以前からファッションブランドやラグジュアリーブランドが、プレタポルテや商品販売だけでなく総合的ブランディングのアプローチとしてセカンドラインや生活用品販売を提供することはあった。近年ではその一環としてカフェやレストランを提案する傾向がある。イタリアでは、すでにアルマーニやグッチがレストランをオープンさせており、シャネルもいち早くアラン・デュカスと2004年に銀座でレストラン「ベージュ」をオープンしている。さらにここ数年、フランスにおける高級ブランドのガストロノミー界への関与には目を見張るものがある。2019年にはサン・ローランがカフェを、2022年にはディオールがブランドの名前を掲げたレストランをオープンさせた。2020年、LVMHグループがパティシエ・ショコラティエ界を牽引する新しい俊才として注目を浴びていたマキシム・フレデリックをシュヴァル・ブラン・パリに迎え入れたのは、ブランディング戦略としては大成功と言えるだろう。同じくLVMHグループは去年6月にテレビ番組から人気がでて星付きシェフとなったモリ・サコーとのコラボレストランを南仏サン・トロペのホテル内にオープンしている。ファッションブランドがホスピタリティーに注力するようになった結果だという意見もあるが、これからは大衆に開かれた新しいガストロノミーの形が形成されていくのであろう。
ガストロノミーの世界も高級ブランドの世界も、共通点は「職人技」だと言えるのかもしれない。しかしながら、大量生産となっている現代の高級ブランド企業が「食」の世界に介入するのはいかがなものか。シェフもレストランもブランディングが必要であるとするならば仕方のないことなのだろうか。
マキシム・フレデリックのカフェに話を戻そう。期間限定と言っても2023年11月15日までなので、日本から訪問のチャンスは十分あり。カフェのメニューは今後また変わる予定だそうだ。また、カフェとショップは予約なしでもアクセス可能なので、興味のある方はヴィトンの歴史をぜひ「体験」して「食して」みてほしい。
マキシム・フレデリック アット ルイ・ヴィトン(LVドリーム展示内ショップ)
LV DREAM | LOUIS VUITTON
26 Quai de la Mégisserie
75001 Paris
- 1勿論バニラビーンズが青いわけではなく、昔レユニヨン島の人は質のいいバニラビーンズは「青い」と言っていたことからこの名前がついている