年始年末のパーティが重なる季節、悩ましい日々が続く。「特別な日」のために手に入れて、大切にとっておいたとっておきのワインを開けるべき時は今なのか、違うのか。恐らく多くのワイン愛好家が、私と同じようなジレンマを毎年この時期に感じているはずだ。
といっても、最近では「特別な日」を待たず「普段よりちょっといい日」があれば、いいボトルを一緒に楽しめる人たちと開けることにしている。この年末もそうだった。
伝説のワイン2本、いうならば対照的なワインを別々に2日間で試飲する計画を立てた。まずはブルゴーニュのシャブリ。世界的に有名なドメーヌ、フランソワ・ラヴノーのシャブリ・ヴァルミュール・グランクリュ2001年。まぁ年代物のグラン・クリュと言えるだろう。(とはいえ、ラヴノーのワインを初めてテイスティングして以来、このメゾンに関して言えば、ワインの年齢というのは非常に相対的なものと私はとらえている)。対するはジュラのアルボワ。カミーユ・ロワのキュヴェ・ルロン1975年。フランソワ・ラヴノーに比べて知名度や権威は大分控えめではある。
産地の違う二つのシャルドネ。どちらもウィヤージュ1ワイン醸造技術の一つ。日本語では補酒と訳される。木樽などでワインを貯蔵・熟成させる際、蒸発して目減りした液量を定期的に補填すること。が行われ、「成熟」したワインである。といっても26歳も年齢の離れた若造と先輩の2本だ。
初日はシャブリでスタートした。ワイン愛好家ならだれでも、特にラヴノーが好きな人なら、ティスティング前のあの不思議な緊張感を知っているはずだ。本当に「今」でよかったのだろうか?ティスティングの条件は整ってる?これ一本しかないけれど食事との相性は大丈夫……?一番難しいのは、そういったことを全て忘れてワインに集中すること。
まずローブ(ワインの色)。年相応だが、それ以上のものはない。そして口あたり2原文では「Toucher de bouche」。ワインのテイスティング用語として使われ、口の中や舌が感じるワインの触感を表現する。はシルキー、なおかつビロードのようでありながら、羽のような軽さが感じられ、ラヴノーの特徴が出ている気がする。まだ若く、ミネラル感を強く感じる。ところが1時間後には、驚くほど完熟したフルーツの香り(なんとパッションフルーツやパイナップル!)を帯びてきて混乱してしまった。嬉しいが、驚きの方が大きいような。こうなると食事とのペアリングが上手くいかなくなる。ラヴノーのほぼ同年代のワイン、特にプルミエクリュ・ビュトーのほうが美味しかった記憶がある。結果、困惑の方が強い経験となった。
次は、アルボワの番だ。生産者カミーユ・ロワは2020年7月、100歳の年にアルボワで亡くなった。彼の最後のヴィンテージは1990年まで遡るが、数年前まで客や訪問者を歓迎し、自身が飲み頃になるまで大切に保存していたワインを販売していた。
47年物のシャルドネ、と聞いてちょっとたじろぐのも当然だろう。しかし、私自身はカミーユ・ロワの年代物シャルドネをすでに何度かテイスティングしていて、美味しかったので大丈夫だろうと思っていた。確かに、その中でも熟成度が良いものとそうでないものがあったが、彼のワインを飲むときはいつも嬉しい驚きがある。今回もその期待は外れなかった。当然熟成はしている。だが魅惑的なその香りと繊細で絹のような口あたり以上に、酸味・余韻・複雑なアロマたち(ヘーゼルナッツ・クルミ・ドライハーブ・トリュフ・モカ、そしてうま味)の非常に美しいバランスに感嘆する。驚きだが、美味しいのだ。
こうなると、ラヴノーの47年熟成のグラン・クリュはどんな味なのか、気になって仕方がない。まだカミーユ・ロワのワインが数本残っていることも嬉しい。アペラッション・知名度・ミレジメ・ヴィンテージ……。テイスティングの楽しみはいつもでも新しいサプライズが待っている。
- 1ワイン醸造技術の一つ。日本語では補酒と訳される。木樽などでワインを貯蔵・熟成させる際、蒸発して目減りした液量を定期的に補填すること。
- 2原文では「Toucher de bouche」。ワインのテイスティング用語として使われ、口の中や舌が感じるワインの触感を表現する。