星を失っても人気は失わない鰯定食

ミシュラン星付きの店で食べる魚と言えば高価な「鮪」がすぐ思い浮かぶが、鰯を思い浮かべる人は少ないだろう。ところが、ランチに大衆魚の代表ともいえる「鰯」を使い、星こそ失ったものの、未だ人気は失なっていない店が新宿一等地にある。

昭和6年(1931年)創業、稀代の美食家「北大路魯山人」の系譜を持つ老舗名門割烹「新宿割烹 中嶋」だ。

地下にある入口へ繋がる階段は、開店前から客で埋まりごった返す。入店後、客にスムーズに料理が提供されるように予め女将からメニューが渡される。女将は元大手航空会社客室乗務員、昔取った杵柄で乗客を機内に案内するかのように手際よい客さばきで、次から次へと対応し、客を注文を取り板場に伝える。注文を受け取った板前はこれまた次から次へと熟練の技で「鰯」を捌(さば)く。素晴らしいオペレーション。まるで店内はエコノミークラスの機内のようだ。

この店を目指して来る客にとっては口コミ・SNSで広がった「御飯二杯迄無料・元ミシュラン一つ星・格安ランチ」が最大の魅力であり、かの「北大路魯山人」など知る由もない、漢字の「鰯」を読み書きできない若者や海外客が大半だ。そんな風に決めつけるのは失礼かもしれないが。

メニューは5種類の「鰯定食」で、一番人気は鰯フライ、そして玉葱を玉子とじにした熱々の「柳川鍋定食」1,100円(税込)だ。レアメニューは「塩焼定食」で、大きないわしが入荷したときだけ提供される。

少し濃いめの味付けである為、殆どの客がここぞとばかりに二杯目のご飯(無料)をおかわりしている。日本には御飯をおかわりしないと失礼にあたる慣習もあるのは確かに事実だが、流石に有料(110円)となる三杯目をおかわりしてる客は皆無のようだ。

少し濃いめの出汁で味付けし、御飯おかわりを事前想定し、それで客に満足感を与える手法も「北大路魯山人」から教わったテクニックなのだろうか。

会計は現金のみなので海外客は戸惑うが、退店時には女将が機内アナウンスのような口上で気持ちよく送り出してくれる。

料理も接客もファーストクラスとは言えないが、エコノミークラスだと思えば上出来。皆、満足して店を後にしている。

東京都新宿区新宿3-32-5
日原ビルB1
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