2023年2月13日、パリのレストラン「Accents Table Bourse」で開催された 静岡県主催の日本酒テイスティングイベントのレポート。
「富士山麓の麓。東海道中、静岡の酒巡り」と題されたテイスティング。静岡の酒?確かに富士山麓の美味しい水のイメージはあるが、本来美味しい酒処のイメージとしてあがる「雪国」「米の産地」などは、静岡からは思い浮かばず、どちらかというと酒造りには不向きな温暖な気候の印象が強い。そんな静岡で果たしてどんなお酒を造っているのだろう。
ワインの知識は多少あると自負しているが、日本酒に関しては素人なので、このティスティングで色々勉強したいと張り切って参加した。
唯一の欠点は、部屋が暑かったこと。本当に暑すぎだったと思う。テイスティング用の日本酒のボトルはテーブルの上で冷やされた状態ではなかったので、高級日本酒を正当に評価するには、最適な条件ではなかったと思う。
古くは江戸初期からの酒蔵も存在する静岡県だが、どちらかというと地酒として県内で消費されていた。酒蔵の数は昭和30年代には75を超えていたが、時代の変換もありその後多くが廃業し、現在存在する酒蔵は約30軒。しかし残った酒蔵がお酒の品質を向上させようとたゆまぬ努力を続け、それは1980年代に開発された酒米「誉富士」、更に1985年の「静岡酵母」開発となって実を結ぶ。この酵母によって静岡の酒は生まれ変わる。県外からの高い評価を受け、静岡県は「吟醸王国」として承認されるようになったのだ。
この日のテイスティングでは、8つの蔵元から約20種類の日本酒が出品された。会場となったレストラン「アクサン・ターブル・ブルス」提供の塩味と甘味のおつまみの数々と日本酒とのペアリングも楽しめた。
その中で特に印象に残った酒蔵と日本酒を紹介する。
富士錦酒造
静岡東部、富士宮市にある元禄元年(1688年)創業の酒蔵で、富士の岩盤で70年かけて自然ろ過された湧水を仕込み水として利用している。私が気に入ったのは「富士錦純米酒 青ラベル」、美山錦を使用し精米歩合は60%。口に含むと非常にエレガントでデリケートな味わいが広がる。この日試飲した酒の中で最も辛口の酒の一つでもある。一口目の繊細な印象からは想像もできなかった驚くべき力強さが口の中に残った。
ペアリング:ミネラル感がありつつ、長い余韻を残すこの酒は、ワサビとのりを乗せた私の大好物うに丼と相性が非常に良いに違いない。
神沢川酒造場
かつては宿場町としても知られた由比にある神沢川酒造場は、大正元年(1912年)に創業された。国内外のコンクールで何度も入賞している。今回出品されていたのは三点で、私が一番気になったのは「正雪 辛口純米 誉富士」(精米歩合60%)。この酒は静岡オリジナルの酒造好米「誉富士」を使っているだけでなく、酵母も静岡酵母を使用している。先ほどの富士錦ほど辛口ではなく、やわらかでありながら非常に瑞々しい。飲みやすいすっきりとした旨味が多くの人に好かれる味だと思う。複雑すぎることなしに、そのバランスの良さとメロンを思わせる含み香が心地の良い酒だ。
ペアリング:この酒と一緒に食べてみたいのは、新鮮な料理―シンプルに刺身の盛り合わせなど―や、うま味を多く含んだ夏の料理、例えば熟したトマトにソラマメを混ぜたサラダなどである。
土井酒造所
お茶の産地で知られる掛川で明治5年(1872年)に創業。この蔵元の顔である酒、その名も「開運」。まずは「開運 特別純米 葛の里」(原料米:誉富士、精米歩合:55%)をいただく。この酒の特徴は、葛の花(掛川市の市花)から採取された花酵母が仕込みに使われていることだ。ところが、一口飲んで自分が一体どう感じているのか、そしてどう表現していいのか躊躇する。ヴェジタルな青っぽい味わいと香りの中に、渋みと苦みがはっきりと感じられる。残念ながら、この日出ていたどの酒よりも、部屋の暑さの影響を受けていたように思う。
少し不安になりながら、次の酒「開運 特別純米」(精米歩合55%)を口にする。実はこの酒を数年前に静岡で試飲したことがあり、非常にいい印象だったことを覚えていた。幸いなことに今回もその時と同じくバランスの良さが印象的な美味しいお酒だった。
しかし、何といっても私のおすすめは3番目に飲んだ「開運 純米 ラッキーキャット」(精米歩合55%)である。酒米の代表である「山田錦」と静岡酵母で造られている。まろやかな口当たりに、エレガントで豊かな風味にうま味が伴い、それが口の中で広がり、膨らみ、さらに余韻が残る。なんとも旨い!!
ペアリング:鶏肉のグリルに緑食野菜を付け合わせて白味噌のソース添えた一品。うん、この酒と一緒に飲んでみたい!
静岡に数回行った際 名産品だと知り美味しいお茶やワサビを味わったが、次回からは、そのリストに日本酒を忘れずにつけ加えようと思う。