3種のセパージュ。ヴィオニエ、ピノ・ノワール、シラー。料理とグラスワイン3杯とのペアリングで感じたのは交差する3つのテロワール。フランス、オーストラリアそしてほんの少しのベトナム。ペアリングランチのひとときを振り返る
先週、レストラン「ル・マズネー」でランチをする機会があった。シェフのデニス、そそしてマダムランの夫婦が切り盛りしているこのレストランは、パリの食通にはよく知られた場所でいつも常連で一杯だ。メニューに載っている品数はそれほど多くないが、それぞれの料理が非常によくできている。店のシグネチャーとして知られているエスカルゴ、ポム・ドフィーヌ1マッシュポテトとシュー生地を合わせて揚げたもので、付け合わせによく使われる、ミルフィーユは無敵の美味しさだ。
ワインリストも充実している。フランス全土のワインがきちんと網羅されているので初めて見たときは驚いたものだ。なかでもブルゴーニュが好みのようで、リストが少し長めだ。しかしそれは当然。シェフはブルゴーニュ出身で、レストランの名前はシェフ出身のブルゴーニュにあるマズネー村から来ている。と言ってもワインを選んでいるのはベトナム・ハイフォン出身のマダムランである。この日、私は彼女のセレクションに任せて、食事とグラスワインワインでペアリングをすることにした。
爽やかなヴィオニエ
最初の1杯は白の辛口ワイン、ドメーヌ・グレアム&ジュリーボット2ニュージーランド出身のグレアムが、ローヌ出身の妻ジュリーと2015年に立ち上げたドメーヌのキュヴェ・ファーストフライト2021年。IGP[/mfn]フランスでは国の法律でワイン法(AOP法)があり、これによって「AOP」(Appellation D’origine Protégée:原産地名称保護)のワインをヒエラルキーの頂点に、「IGP」(indication géographique protégée地理的表示保護)、そして「Vin de Table(生産地の表示なし)」という区分がされている[/mfn]ローヌ渓谷産のヴィオニエ100%使用。実は全く知らないドメーヌだったが、マダムランのアドバイスのおかげで初めて飲んだ。
色(ローブ)は淡く黄色がかっていて透明感がある。香りは柑橘と白い花系とアカシア。軽くて流れるようで、かなりのミネラル感を感じつつも一点の苦みがある。近年、ローヌのヴィオニエはどこかバランスが悪く、重いというイメージがあったので嬉しい驚きだった。フレッシュなこのワインは、マダムランのお母さんのレシピだという自家製揚げ春巻きと付け合わせのカラマンシーヴィネガーで味付けされたサラダにとてもよく合う。揚げ物の脂っこさはワインの活き活きとした酸味で消え去り、ヴィオニエ特有のエキゾチックフルーツ(パイナップル、パッションフルーツ)のアロマが料理のスパイスやハーブとうまく調和している。
エレガント。ブルゴーニュ産ピノ・ノワール
メインが来る前に、マダムランが持ってきてくれたのはフィリップ・コラン3シャサーニュ・モンラッシェを代表するドメーヌ、ドメーヌ・ミシェル・コラン・ドレジェのミシェル・コランの引退を機に二人の息子が独立。長男のフィリップは、父ミシェル氏の新しい醸造施設を引き継ぎ、自らの名前をつけたのシャサーニュ・モンラッシェの赤「Les Chênes」2019年だ。ローヌからブルゴーニュに移動、セパージュも変わってピノ・ノワール。このドメーヌの白を試飲して美味しかった記憶があるが、赤は飲んだことがなかった。色は明るいルビー色。香りはというと、最初は少し若くてまだあまりきちんと整っていない印象だったが、グラスの中で数分空気に触れさせると落ち着いた。大変フルーティーで、いかにもピノらしい酸味、バランス、エレガントさがある。芳醇かつフレッシュ、さらにはある種の複雑さも兼ね備えている。
ローヌのシラー・オーストラリアバージョン
運ばれてきた料理は、キャベツとフォアグラ詰めの鳩、付け合わせはプンタッレラ4プンタッレラ イタリアで栽培されるチコリの一種、そしてカリンとエシャロット風味の肉汁でできたペーストのような調味料だ。ここでマダムランが出してくれたのは、ローヌ地方の有名なワイン生産者、シャプティエのオーストラリアン・シラーズ2001年。オーストラリア産シラーを飲んだことがない上に、ローヌの代表的なドメーヌのワインということで、私にとっては2つの意味で興味深い。
色は濃厚。香りも同様。スパイシーで胡椒の香りが効いているが、その中にプルーンのようなフルーツコンフィーの香りもする。しかし決して熟しすぎた香りではない。口の中でのバランスと調和は絶妙だ。スモーキーである一方でスパイシーで胡椒の香りが主張しすぎることなく共存していてとても心地よい。きちんとボディがあり、果実味に溢れている。ワインの酸味が、もう一つの付け合わせであるポム・ドフィーヌとのペアリングのバランスに一役かっている。食事が終わってから気づいたのだが、2001年はヴィンテージだった。この22年熟成のワインのアロマとフレッシュさには驚かされた。言われなかったら、実際の年数より10年くらい若いと思っただろう。
この日のティスティングでわかったことは次の二つ。まずは、好奇心が刺激されたのでボット社の白ワインをもっと飲んでみたくなったということ。そして二つ目は、自分の先入観に捕らわれず、他人のアドバイスにも耳を傾けて、他大陸のシラーに目を向けるのはよいことだということである。
- 1マッシュポテトとシュー生地を合わせて揚げたもので、付け合わせによく使われる
- 2ニュージーランド出身のグレアムが、ローヌ出身の妻ジュリーと2015年に立ち上げたドメーヌ
- 3シャサーニュ・モンラッシェを代表するドメーヌ、ドメーヌ・ミシェル・コラン・ドレジェのミシェル・コランの引退を機に二人の息子が独立。長男のフィリップは、父ミシェル氏の新しい醸造施設を引き継ぎ、自らの名前をつけた
- 4プンタッレラ イタリアで栽培されるチコリの一種