ニコラ・フラメルの魔法の一品

オマール海老のコライユは生の状態では青緑色だが、加熱すると殻と同じく鮮やかなオレンジ色になるというのを「オーベルジュ・ド・ニコラ・フラメル」¹14世紀の錬金術師の一皿のおかげで知った。オマールのセカンドサービスに登場したこの一皿。先にきた一品については全メニューの詳細を後日お伝えするということで…。宇宙人のような怖い顔をひっくり返すと、ジュレに固めたオマールのコンソメが現れた。つるっと寒天のようなジュレは濃いオレンジ色。海老の身と微塵にしたバターナッツかぼちゃがぎっしり詰まっており、レモン汁でアクセントがつけられている。口の中に入れると「ル・プレカトラン」シェフ就任当初(2000年頃)のフレデリック・アントンが作っていたジュレを思い出した。同時にジョエル・ロブションの顔も思い浮かんだのは、オマールジュレの上に点線―ここでは少し大きめだがーが並んでいたからに違いないだろう。ふと、懐かしい思い出が頭をよぎる。え？オマールジュレがプルーストのマドレーヌ ？夢があるような、ないような。

そして、横に添えられているのはミルクパンのトースト。大好き！！と興奮した。確かに私は小麦粉とバターさえあればすぐに満足してしまう。フランスのバターがそのくらい美味しいモノだから、ね。しかし、グレゴリー・ガランベーシェフが作った鮮やかなオレンジ色のミルクパンは、「コライユ」を生地に練り込んで焼いたもの。カリっと軽いがバターの香りがたっぷり。だから美味しい。シェフは、更にそこにオマール海老の卵で作ったタラマ²ギリシャやトルコ、ユダヤ料理で使われる魚卵を使ったペーストを多めに乗せた。こちらは加熱していないから生の内子のブルーグリーン色。素晴らしいアイデア！フランス語ではホタテだけでなく甲殻類の生殖巣や内臓部分を「コライユ」＝珊瑚という。全く違うものを同じ言葉で表現するのも考え物だが、「珊瑚」と色だけで名前を付けてしまうことも、言い換えれば臓器の名前よりも夢があるではないか。甲殻類の生体構造を完全に理解している人は科学者だけだろうが、確か海老は脳も心臓もすべて頭の中に詰まっている変な動物だったような気がする。まぁ、食べる前にあまり深く考えないほうがいいだろう。

う～ん、ウマい！温かいトーストからはバターの濃厚な風味があふれ出る。濃厚だけど脂っこくしつこくはない。ふんわりと包まれたコライユの甘味がバターのまろやかさをひきたてて、甲殻類特有の濃いうま味と甘みはまるでカラメルのように舌に残る。他の何とも比べようがない。「カリッとした海老」のあまりに濃いうま味に衝撃を受けたグルメ友達は、実はシェフがトーストの中に海老の揚げ春巻きを隠しているのではないかと本気で思っていた。

それだけこのトーストは上品な揚げ物のようにカリッしていて、うまみと甘味に満ちていた。

続きはまたの日に。

L’Auberge de Nicolas Flamel
51 rue de Montmorency
75003 Paris

• 1
  14世紀の錬金術師
• 2
  ギリシャやトルコ、ユダヤ料理で使われる魚卵を使ったペースト